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【補足】8-2 虚血性心疾患



◯虚血性心疾患とは

 

虚血性心疾患とは、心臓に栄養を供給する血管である冠動脈に、狭窄や閉塞が生じているところに、運動やストレスなどの引き金により、心筋に十分な血液が送れない(酸素が運べていない)ため、心臓が酸欠(虚血)状態になっていることである。

狭心症や心筋梗塞をまとめて、「虚血性心疾患」という。

 

冠動脈の狭窄や閉塞の原因として、動脈硬化や、冠動脈の攣縮がある。

 

◯心臓が虚血状態になったら、どうなるか?

・心筋に必要な酸素が足りないため、胸が苦しくなり、痛みや締め付けられるような症状がでる。

・虚血状態が長く続くと、心臓がポンプ機能を十分に発揮することができないため、心不全の症状が出てくる。

・重症になると、血圧が下がってショック状態となり、全身が虚血状態になる。また、心筋が連動して動くための電気信号の伝わりにも支障をきたすため、命に関わる不整脈がでることもある。

虚血性心疾患は、一過性の心筋虚血(可逆的)である狭心症と、心筋虚血により心筋壊死に至る(不可逆的)心筋梗塞がある。

 

硝酸薬とは、冠動脈と静脈の両方を拡張させる薬剤である。冠動脈を拡張させるため、狭心症の発作時に、即効性の硝酸薬を使用すると、症状を和らげることができる。

一方、心筋梗塞は、完全に詰まっているため、硝酸薬は効果がない。

◯虚血性心疾患/臨床上の分類

 

冠動脈にできたプラーク(コレステロールの塊)に何らかの原因で避けると、そこに血栓ができる。これは、急速に冠動脈の狭窄・閉塞を招く。このように、数日〜数週間のうちに事態が急変する可能性がある疾患群を、急性冠症候群(ACS)と呼び、不安定狭心症や、急性心筋梗塞などが含まれる。

 

一方、数週間以上変化が見られないような疾患群を、慢性冠動脈疾患といい、労作性狭心症や冠攣縮性狭心症が含まれる。

◯狭心症の分類/症状の起こり方による分類

労作性狭心症

・冠動脈に動脈硬化性病変があり狭窄がある=心筋への血液の供給が少ない(血液による酸素供給)

・そこに、労作により、心筋が全身に血液を送るために、収縮したいが、収縮する(仕事をする)ために必要な酸素が心筋に送られない状態

→心筋への酸素供給量<<酸素需要量 の状態

 

そのため、労作時に発作が出現することが特徴である。

 

薬物治療は、発作時と発作予防に大きく分けられる。

<発作時>

 硝酸薬・・・冠動脈を拡張させ、心筋に十分な血液が供給されるようにする

<発作予防> 

 β 遮断薬・・・心臓の動きを休めて、酸素需要を少なくさせる

 Ca 拮抗薬・・・血管(動脈)を拡張させたることで心臓が楽に血液を全身に送ることができるようにしたり、心臓を休める

 硝酸薬・・・冠動脈を拡張させたり、静脈を広げることで血液が静脈にも十分量ためられるので、心臓への負荷(前負荷)を軽減する

 

他にも、血栓予防のための抗血小板薬や、動脈硬化の改善のためにスタチンなども用いられる。

 

薬物治療の他にも、カテーテル治療やバイパス手術、生活習慣の改善が必要になる。

 

 

冠攣縮性狭心症

冠動脈が攣縮することで、冠動脈が閉塞して、心筋に必要な血液を送ることができない状態。

発作が起こりやすいのが夜間〜早朝で、安静時に好発することが特徴的である。

 

薬物治療は、発作時と発作予防に大きく分けられる。

<発作時>

 硝酸薬・・・冠動脈を拡張させ、心筋に十分な血液が供給されるようにする

<発作予防> 

 Ca 拮抗薬・・・血管(動脈)を拡張させたることで心臓が楽に血液を全身に送ることができるようにしたり、心臓を休める

 硝酸薬・・・冠動脈を拡張させたり、静脈を広げることで血液が静脈にも十分量ためられるので、心臓への負荷(前負荷)を軽減する

※β遮断薬は、冠攣縮を増悪させる可能性があるため、単独では使用しない。Ca 拮抗薬との併用であれば、使う場合もある。

 

薬物治療の他にも、生活習慣の改善が必要になる。

 

 

◯狭心症の分類/病状での分類

安定狭心症

どのくらいの動作をしたら、狭心症発作が起こるか、ある程度予測ができる

労作性狭心症を指して、安定狭心症ということもある。

 

不安定狭心症

安静時狭心症が新たに発症した、発作頻度が増えてきた、発作治療時の薬が効かなくなってきた、軽い動作で狭心症発作が起こるようになったなど

心筋梗塞になりやすい状態であるため、注意が必要。



硝酸薬

◯硝酸薬

・ニトログリセリン

・亜硝酸アミル

・硝酸イソソルビド など

<作用機序>

体内で、一酸化窒素を放出する。(一酸化窒素は、体内で情報伝達物質として作用する)

血管平滑筋に作用して弛緩させるので、血管を拡張させる。そのため、心臓の負荷を軽減する。

特に、冠動脈(血管を養う)と全身の静脈を拡張させるのが、特徴的である。

 

<分類>大きく、二つに分けることができる

即効性があり、発作時に、発作を寛解させる目的で使う

 (使用する剤型の例)注射薬、舌下錠、口腔内スプレー

 

・効果に持続性があり、発作を予防する目的で使う

 (使用する剤型の例)経皮吸収型貼付薬、持続性内服薬

 

 

・おまけ・

ニトログリセリンの用途には、大きく二つあります

・【爆発物質】ダイナマイトとして、工事現場などで使用

・【医薬品】狭心症の治療薬として使用されている

 

なお、ノーベル賞の創設者、アルフレッド・ノーベルは、爆発性物質であるニトログリセリンを使いやすくしたダイナマイトを発明しました。工事現場で使うことを目的に開発しましたが、残念ながら戦場でも使われ、多くの命を奪ったため、「死の商人」と呼ばれました。それを憂いて、ノーベル賞を創設しました。また、ノーベル氏も、晩年には心臓を患い、ニトログリセリンを治療で使用したとか。