· 

【補足】7-7 片頭痛治療薬

片頭痛は、10代〜40代の女性に多く、日常生活や仕事に影響を及ぼすことが多い。しかし、正しく認識されていることが少なく、市販の鎮痛薬で対処されていることも多い。その結果、薬物乱用性頭痛を起こすことも多いため、注意が必要である。

 

◯片頭痛治療薬

・急性期治療薬

軽症の場合は、鎮痛薬で対処されることもあるが、片頭痛に特異的な治療薬として、エルゴタミン製剤、トリプタン製剤、ジタンがある。

エルゴタミン製剤は、最初に開発された片頭痛の急性期治療薬。

妊婦に禁忌である(子宮収縮作用、胎盤・臍帯における血管収縮作用のため)ため、使用頻度は減少。

トリプタン製剤が、現在、治療の中心である。

最近、血管拡張物質関連の薬剤が新薬として開発されている。

 

急性期(片頭痛発作時)には、一緒に起こる悪心・嘔吐に対して、制吐薬も一緒に用いられる。

 

・発作予防薬

発作のない時(間欠期)には発作予防薬が用いられる。

片頭痛の頻度が高い場合など、発作予防薬が有効である。急性期治療薬の使用頻度が高く、薬物乱用性頭痛(後述)のリスクがある時には、発作予防薬を活用することで、急性期治療薬の使用頻度を少なくすることが期待される。

◯片頭痛の発生機序

片頭痛の詳細な機序は、不明な部分もあるが、「三叉神経」「血管拡張」の関与が考えられている。

 

三叉神経血管説は、なんらかの刺激で、三叉神経から、カルニチン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などが放出され、血管が過度に拡張し、片頭痛が発生する、というものである。

 

トリプタン系の薬は、セロトニン受容体に作用する。セロトニン受容体の種類のうち、5-HT 1B を刺激することで、血管収縮作用がある。5-HT 1D を刺激することで、血管拡張物質を抑制するため、片頭痛に有効だと言われている。

以前のエルゴタミン製剤と比較すると、安全性も高い薬剤だと言われているが、血管収縮作用を持つため、脳血管障害や虚血性心疾患患者には、禁忌である。

 

また、最近、CGRP に関連する新薬が開発されている。

 

ジタンは、5-HT 1F 受容体を刺激することで、CGRP の放出を抑制する。その一方で、5-HT 1B に作用しないため、血管収縮作用は持たない。

 

また、CGRP に関連するモノクローナル抗体製剤も開発されている。CGRP 抗体や、抗 CGRP 受容体抗体が開発されている。

◯発作治療薬の使い方

発作治療薬は、使うタイミング使用頻度、が非常に重要である。

 

まず、片頭痛の経過を見ていく。

片頭痛の誘因として、ストレス、睡眠の過不足、月経周期、天候などが影響すると言われている。

片頭痛患者の約30%には、前兆があり、閃輝暗点といい、ギザギザした光が見えることがある。

痛みは、通常4時間から72時間くらい続くこともある。

 

トリプタン製剤は、片頭痛発作のできるだけ早期に服薬することが有効である。

できるだけ早期に服薬することで、痛みのピークが強くなる前に、痛みを緩和させることができる。

 

◯急性期治療薬の使い分け

・軽度〜中等度の場合

NSAIDs の頓用で対処可能なこともあるが、無効な場合、トリプタン製剤が有効である。

 

・中等度〜重度の場合

トリプタン製剤が治療の中心となる。

無効な場合は、NSAIDs を追加して用いることもある。

それでも無効な場合、エルゴタミン製剤が有効な場合もある。

 

トリプタン製剤のスマトリプタンは、最初に開発されたトリプタン製剤であり、剤型も多様である。錠剤のほか、点鼻液や皮下注キット(自己注射可)がある。悪心・嘔吐で内服が困難な場合、点鼻薬や皮下注などの外用薬が有用である。点鼻薬と皮下注射は、効果発現は同程度であると言われている。

 

片頭痛発作を和らげるために有用なトリプタン製剤であるが、薬物乱用頭痛には注意が必要である。急性期治療薬は、いずれも、頻繁に使用すると薬物乱用頭痛の可能性がある。

対策としては、片頭痛発作時のみに急性期治療薬を使うだけでなく、間欠期に適切に予防薬を使用することが重要である。予防薬を適切に使用することで、急性期治療薬の使用頻度も抑えることが可能となる。

使用頻度としては、エルゴタミン製剤は1週間に2回以内、トリプタン製剤は1ヶ月に10回以内の使用が適切である。それ以上使用することが推奨できない。もし、それ以上使用している場合、予防薬があることを伝え、専門医の受診を勧めることが望ましい。