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【補足】7-4 パーキンソン病治療薬

◯パーキンソン病とは

脳内のドパミンが不足することで起こる運動機能障害をいう。

脳内のドパミン神経系の内、黒質線条体系が運動機能に関連している。

パーキンソン病では、黒質線条体系のドパミン神経が変性・脱落することで、ドパミンが不足する。

ドパミンが不足するため、脳内では、相対的にアセチルコリンが増加している状態になっている。

(これらが、薬物治療のターゲットになる)

 

◯症状

以下をまとめて、3大主徴(症状)と呼ばれる。

安静時振戦‥手足がふるえる、丸薬まるめ運動(手のひらで転がして丸めているような動き)

筋強剛(固縮)‥筋肉がこわばる

無動‥動けない、動作が遅い、表情の変化に乏しい

 

姿勢反射障害を加えて、4大主徴(症状)と呼ばれる。

姿勢反射障害‥前かがみ、転びやすい

 

この他、

前傾姿勢

すくみ足

を加えて、6大主徴(症状)と言われる運動症状が特徴的である。

 

運動症状の他にも、非運動症状も認められる。

意欲の低下

幻覚・妄想

睡眠障害

自律神経障害

 

◯パーキンソン症候群

パーキンソン病と同様の症状が現れるが、パーキンソン病とは別の病院によるものをまとめて、パーキンソン症候群と呼ぶ。薬剤性の錐体外路症状もこれに含まれる。

◯薬物治療

パーキンソン病は、脳内のドパミンが不足しているため、ドパミンを補充するのが基本的な薬物治療の作用機序である。あくまでも、補うという、対症療法である。パーキンソン病は、進行性疾患であり、変性した神経を再生することは、現時点ではできないため、基本的に生涯、薬物治療の継続が必要である。

一部、手術の適応となる場合もある。

薬物治療と合わせて、リハビリテーションを行うことが重要である。

 

パーキンソン病の初期で、日常生活に支障を生じていない場合は、薬物治療は不要である。軽症であっても、日常生活に支障をきたしている場合は、薬物治療が開始される。

 

◯作用機序

ドパミン補充療法が基本

レボドパ製剤・・・BBB を通過して、脳内でドパミンに変換され、不足しているドパミンを補充する

ドパミンを経口投与した場合、ドパミンは BBB(血液脳関門)を通過できないため、脳内のドパミン不足の解消はできない。そのため、前駆体であるレボドパを投与する。(レボドパはトランスポーターによって、脳内に移行できる)

 

ドパ脱炭酸酵素阻害薬・・末梢で、レボドパ→ドパミンに変換されるのを防ぎ、中枢に、より多くのレボドパが移行することを助ける。自身は BBB を通過しないため、中枢でのドパミンへの変換には影響しない。

 カルビドパ →レボドパ・カルビドパ配合剤:ネオドパストン(R)、メネシット(R)

 ベンセラジド →レボドパ・ベンセラジド配合剤:マドパー(R)、イーシー・ドパール(R)、ネオドパゾール(R)

 

COMT 阻害薬・・ドパミンを不活化する酵素である COMT を阻害する

 エンタカポン

 オピカポン

 

*3剤配合:レボドパ・カルビドパ・エンタカポン(スタレボ(R)

 

ドパミン受容体刺激薬(ドパミン作動薬、ドパミンアゴニスト)・・・ドパミン受容体に直接作用して、ドパミンの作用を補填する

 

MAO-B 阻害薬・・ドパミンを分解する酵素(MAO-B)を阻害することで、ドパミンの作用増強させる

※レボドパと併用すると、効果を長く延長させることが可能(ウェアリングオフやオン/オフ現象の予防・軽減)

 

COMT 阻害薬・・血液中でのレボドパ分解を阻害することで、レボドパの効果を持続させることができる

※レボドパと併用すると、効果を長く延長させることが可能(ウェアリングオフやオン/オフ現象の予防・軽減)

 

ドパミン遊離抑制薬・・神経細胞からのドパミン放出を促進。ジスキネジアに有効な可能性

 アマンタジン・・もとは、インフルエンザ治療薬

 

抗コリン薬・・ドパミン不足により相対的に増加しているアセチルコリンの作用を抑制する

振戦に有効。副作用としての抗コリン作用に注意が必要。

 

ノルアドレナリン前駆物質・・ノルアドレナリンを補充する。すくみ足などに有効

 

◯レボドパの長期治療で起こる変化

レボドパは、パーキンソン病に最も有効な薬であるが、長期間の治療を行ううちに、薬効が不安定になり、運動障害の日内変動が起こることがある。

この原因として、ドパミンを貯蔵する神経細胞が減少(疾患の進行)すること、などが考えられている。

 

ウェアリングオフ現象・・・レボドパの薬効時間が短縮し、服用後、1〜2時間後には、薬効が消失し、筋固縮や無動などの疾患の症状が出現する。

 

no-on/delayed on 現象

・no-on:レボドパを飲んでも効果がない

・delayed on:効果発現に時間がかかる

 

on-off 現象:レボドパの服薬時間に関係なく症状が良くなったり、突然悪くなったりする

◯レボドパ長期服薬で起こる変化:ウェアリング・オフ現象の対策

 

効果発現時間が短くなることで、血中濃度が急増後、次回の服薬前には血中濃度が低くなりすぎる場合がある。

服薬後すぐには、ジスキネジア(peak dose ジスキネジア)症状が出て、次回の服薬前に、無動などパーキンソン病の症状が起こることがある。

 

・peak dose ジスキネジア・・・顔面・舌・頸部・四肢・体幹に舞踏様症状が出る

・薬が効いてスムーズに動ける時間が短縮

・次回服薬前には、体が動かしにくい

 

この対策として、例えば、それまで、レボドパを1日3回投与していたのであれば、1日4回に服薬回数を増やしたり、ドパミンアゴニストを追加・増量したりする。

◯レボドパの長期治療で起こる変化

不随意運動を生じることがある。

 

ジスキネジア(前述)

すくみ現象・・約半数の患者では歩行障害を呈するため、転倒防止のためにも、リハビリテーションが重要である。

 

・歩行障害

 すくみ足:動きはじめの一歩目が踏み出しにくくなる

 小刻み歩行:歩く時に、歩幅が小さくなる(腕の振りも小さくなっている)

 すり足:足を床にすって歩く

 方向転換時の転倒:身体のバランスが悪く、方向転換時に転倒しやすい

 加速歩行・突進歩行:大きい歩幅の足の運びができないため、前のめりで早足になる

◯副作用

抗パーキンソン病薬の副作用として、比較的頻度が高いものに、悪心・嘔吐などの消化管症状起立性低血圧がある。

 

頻度は稀だが、重篤な副作用に悪性症候群がある

(参考)抗精神病薬

 

ドパミン神経に影響する薬剤の服用と関連する副作用の一つである。

抗精神病薬の開始時・増量時の他、レボドパを突然中断することも要因となる。

そのため、レボドパを急に中断しないことや、薬物吸収障害を防ぐためにも、便秘の解消を図ることも重要である。

 

発熱・大量発汗には注意が必要である。

◯副作用

抗パーキンソン病薬の副作用として、精神症状(幻覚・妄想)も起こる可能性がある。

 

黒質線条体系のドパミン神経を刺激することで、運動症状の改善を図る薬であるが、他のドパミン神経に作用することで、副作用症状につながる可能性がある。

中脳辺縁系は情動行動などと関連しており、刺激されることで、精神症状につながる可能性がある。

ただし、疾患の症状としても、幻覚・妄想が出現する可能性がある。

治療薬の副作用としては、特に、ドパミンアゴニストや MAO-B 阻害薬が関連するため、薬の増量時や発熱時には注意が必要である。

そのため、高齢者に対しては、原則、レボドパで治療開始する。また、幻覚が現れた場合、最後に追加した薬を減らして、処方の見直しが行われる。

 

また、ドパミンアゴニストの副作用として、過眠がある。

突発的睡眠や傾眠の可能性について十分に説明し、

自動車の運転や機械の操作、高所作業等の危険を伴う作業に従事させないなどの、対処が必要な場合がある。