うつ病の薬物治療の考え方
・うつ病は脳内の神経伝達物質の乱れが原因で起こること、治療で症状が改善することを理解してもらう
※心の弱さが原因ではない
・治療は軽快したり・悪化したり、波がある
・長期間が必要(年単位)
→安易に励ましたり、批判的に対応せず、支持的に対応する。
①急性期
(原則)低用量から投与開始し、副作用の発現に注意しながら増量する
(原則)十分量を十分期間(6~12週間)投与してから、効果判定する
効果不十分と考えられる場合、他の抗うつ薬に徐々に切り替える
※抗うつ薬の薬効が現れるには時間がかかるので、焦らない
※症状には波があるので、一喜一憂せずに、焦らず、根気強く治療を継続することが重要である。
SSRI, SNRI の治療初期は、消化器症状が起こる可能性が高い。気分の不安定さには、特に注意する。副作用対策として、低用量から開始し、漸増する。
②継続期・維持期
治療により大うつ病エピソード前の状態に戻る=寛解状態が得られたら、症状の安定化を維持して、再燃を予防するために、薬物治療を継続する。
※よくなったと思って、自己判断で中止しない
治療が長期間に及ぶと、性機能障害などの副作用が生じる可能性もある。
③投与中止期
寛解・回復後、一定期間薬を続けた後に、抗うつ薬を徐々に減らしていき、最終的には中止する。
うつ病の病態の詳細は、不明な部分もある。
◯モノアミン仮説
うつ病の方の脳内では、神経伝達物質が不足している。
そのため、抗うつ薬は、神経伝達物質の再取り込みを阻害することで、シナプス間隙の神経伝達物質の量を増やすことを図る。
ただし、これでは抗うつ薬が効果を発揮するために、長期間の時間がかかることが説明できない。
他にも、以下のような説がある。
・神経伝達物質が不足しているため、受容体が過剰に発現している説
・神経細胞新生仮説
・・・ストレスのせいで障害されていた神経細胞が、抗うつ薬の作用で、徐々に新生する
(→効果を発揮するまでに時間がかかることは、これで説明がつく、と言われている)
なお、「モノアミン」とは、一部の神経伝達物質の総称。
モノ=一つ
アミン=アミン基
を、構造の中に有している。
抗うつ薬は、いくつかの種類がある。共通する点として、セロトニンなどの再取り込みを阻害することで、シナプス間隙に放出されているモノアミンの量を増やして、その作用を強める、という点。
・三環系抗うつ薬(TCA)・・・セロトニンの再取り込みを阻害する
(例)イミプラミン
※他の神経伝達物質にも作用することが、副作用の原因になる
抗ACh(アセチルコリン)・・・抗コリン作用→高齢者では口渇などが起こりやすいので、原則、使われない
抗α1(アドレナリン)・・・交感神経抑制→高齢者では、たちくらみ・転倒などの自律神経症状や、心毒性(抑制する、徐脈)に注意が必要
抗H1(ヒスタミン)・・・ヒスタミン神経抑制→眠気・ふらつき
(ちなみに、「三環系」という名称は、化学構造の中に、3つの環構造があることから)
→高齢者には三環系の使用は慎重に
ただし、原則、SSRIやSNRI が治療の主体であるが、中等度のうつ病などに対しては、三環系が使われることもある(効果発現も比較的早いため)
・四環系抗うつ薬・・・α2受容体を遮断し、ノルアドレナリンやセロトニンの遊離を促進する
(例)ミアンセリン
・TCA よりも連用時の副作用が少ない
・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)・・・選択的かつ強力にセロトニンの再取り込みを阻害する
(例)パロキセチン、セルトラリン
(適応症)うつ病だけではなく、強迫性障害(OCD)、社会不安障害(SAD)、パニック障害にも用いられる
(副作用)※TCA と比較して、抗コリン作用などの副作用は起こりにくい
・<投与開始時におこやすい副作用>消化器症状:悪心・嘔吐
・<まれだが重篤な副作用>賦活症候群、離脱症候群
・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)・・・セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを同程度に強力に阻害する
(例)ミルナシプラン
(特徴)SSRIよりも、消化器症状の副作用が少ない。ノルアドレナリンにも作用するため、SSRI と比べて意欲向上の効果が期待できる。
・ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)・・・α2自己受容体に作用して、セロトニンとノルアドレナリンの遊離を促進する。5-HT2, 5-HT3 受容体をブロックすることで、セロトニンは抗うつ作用に関連する 5-HT1 受容体に効率的に作用することができるようになる。
(例)ミルタザピン
(特徴)ヒスタミン受容体を拮抗するため眠気の副作用があるが、不眠症状を抱えるうつ病患者にとってはメリットになる。
抗うつ薬の有害事象
〇セロトニン症候群
抗うつ薬など、セロトニンに作用する薬剤の使用時に起こる可能性がある
重篤化すると、死に至る可能性もあるため、注意が必要である。
薬の飲み始め時や、増量時に起こる可能性が高い。
多剤併用や相互作用には注意が必要である。
向精神薬は併用されることもある。特に、向精神薬同士の併用時に注意すべきなのが、MAO 阻害薬との併用である
MAO 阻害薬・・モノアミンオキシダーゼ(分解酵素)阻害薬。パーキンソン病治療薬等として用いられる。
セロトニンの分解も阻害されるため、抗うつ薬と併用すると、セロトニンが増えすぎるため、セロトニン症候群のリスクが高まる。
セントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)
”気分が晴れないときに”という販売がされるため、自律神経症状や更年期障害の症状、うつ傾向の人が使う可能性があるサプリメント。代謝分解酵素 CYP を阻害するため、CYP で阻害される薬剤の血中濃度を上昇させ、中毒症状のリスクが高くなる。
・・・(注釈)・・・
「抗精神病薬」・・統合失調症の治療薬
「向精神薬」・・中枢神経系に作用する薬の総称。
・・・・・・・・・・
SSRI や SNRI は、三環系抗うつ薬と比較すると、副作用も少なく、安全性が高い薬剤ではあるが、特有の注意すべき事項はある。
〇悪心・嘔吐
SSRI, SNRI の投与開始時に起こる可能性が高い副作用
(発生機序)セロトニンは、中枢で神経伝達物質として作用しているが、末梢にも存在している(90%は末梢)。胃では、セロトニン受容体に作用して、消化管運動を促進しているため、5-HT4 受容体作動薬は、消化管運動促進薬として、胸やけ時などに使われている。
また、嘔吐中枢やCTZでは、セロトニン受容体に作用すると、嘔吐を引き起こしている。そのため、5-HT3 受容体拮抗薬は、抗がん薬治療による嘔吐に対して、制吐薬として作用している。
このように、セロトニンは腸管や嘔吐と関連している。
投与開始時には悪心・嘔吐が起こることがあるが、この副作用は、だんだん慣れてくる。
対策としては、低用量から漸増投与が行われる。
※SSRI や SNRI は、漸増投与するもの、であるが、患者様によっては、「用量が増えた=悪くなっている」と誤解する可能性がある。そのため、「この薬は、副作用が出ないように徐々に増やして使う薬」であることを、初めに説明する。
〇賦活症候群
若年者では、SSRI, SNRI の服薬開始時や増量時に、中枢刺激症状を呈することがある。
そのため、若年者には、投与するか否か、慎重に判断される。
〇離脱症状
離脱症状とは、(「身体依存」のところで出てきた言葉)
継続服用して服薬していた人が、何らかの原因で急に服薬を中止・減量することで身体症状が出現すること。
・・・
「急に中止」すると、症状がでる、という点がポイント。
・反跳現象は、急にやめると、以前の症状が増悪して出現する
・離脱症状は、急にやめると、それまでになかった症状が出現する という違いがある
・・・
症状が改善したと思っても、急に服薬を自己判断でやめないことが大切。
急にやめると症状も再燃するし、離脱症状の可能性もある。
対策としては、症状が安定してから、徐々に減量を検討する。
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