統合失調症の病態の詳細は、不明な点もあるが、病態を説明するものとして、ドパミン仮説がある。
中枢のドパミン神経系には、主な系路が4つある。
①中脳辺縁系(中脳の腹側被蓋野から、側坐核に投射している系路)
統合失調症の陽性症状と関連し、ドパミン (D2) 受容体が過剰に刺激されている状態であるため、陽性症状として、幻覚・妄想・自我障害などを来すと言われている。
②中脳皮質系(中脳の腹側被蓋野から、大脳皮質に投射している系路)
統合失調症の陰性症状と関連し、ドパミン (D1) 受容体が抑制されている状態であるため、
陰性症状として、意欲減退や感情鈍麻などの症状や、認知機能障害を呈すると言われている。
また、セロトニン神経などによって調節を受けており、ここでは、セロトニン神経がドパミン神経を抑制している。
第一世代(定型)抗精神病薬は、ドパミン受容体拮抗作用を持つため、陽性症状に効果を発揮する。しかし、陰性症状や認知機能障害には、効果がない。
第二世代(非定型)抗精神病薬は、他にも、多様な薬理作用を持つ(セロトニン神経への作用をはじめ)。
そのため、陰性症状や認知機能障害にも効果が期待できる。
抗精神病薬は、第一世代(定型)抗精神病薬(FGA, first generation)と、第二世代(非定型)抗精神病薬(SGA, second generation)の二つに大別できる。
◯第一世代(定型)
(薬理作用)強力なドパミンD2受容体遮断作用を主体とする
(効果)陽性症状に効果がある。陰性症状・認知機能障害には、あまり効果がない
(副作用)
・ドパミン遮断作用に起因する副作用・・・錐体外路症状、高プロラクチン血症、悪性症候群
・他の神経伝達物質も抑制することに起因する副作用
・アセチルコリン抑制・・・抗コリン作用
・アドレナリン抑制・・・起立性低血圧
◯第二世代(非定型)
(薬理作用)ドパミンD2遮断作用はそれほど強くないが、薬剤によりさまざまな薬理作用を示す
・セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA)・・・セロトニン神経もドパミン神経も遮断する
・ドパミン受容体部分作動薬(DPA)・・・ドパミン受容体に結合してわずかに作動薬として作用する(ドパミンが結合したときの100%の作用と比べると、作用は減弱する)
・多元受容体作用抗精神病薬( MARTA)・・・ノルアドレナリンなどいろんな受容体に作用する(作用の強さは、薬剤によって異なる)
(効果)陽性症状に加え、陰性症状や認知機能障害にもある程度有効
※そのため、現在では、「第二世代抗精神病薬を、単剤投与で開始する」というのが、基本的な考え方
(副作用)ドパミン神経に関連する副作用は起こりにくいが、
・体重増加・高血糖
治療での使われ方としては、
・第一世代(定型)
・第二世代(非定型)
・クロザピン
の3つに分けられる。
クロザピンは、従来の治療薬に抵抗性の場合に、治療の選択肢となる。
(管理が重要なため、治療経験が豊富な専門機関で使用すると、理解しておくと良い。)
(中枢のドパミン神経系)4つの主要な系路がある
①中脳辺縁系
通常は、快楽・幸福感と関連している。
この経路のドパミンが過剰に働いている状態が、統合失調症の陽性症状と関連すると言われている。
②中脳皮質系
ストレスを受けると活性化されるような系路であり、
この経路のドパミン神経が抑制されている状態が、統合失調症の陰性症状と関連すると言われている。
③黒質線条体系
黒質線条体系のドパミン神経が変性して、ドパミンが枯渇した状態が、パーキンソン病の病態と関連している。
また、ドパミン神経が抑制されると、錐体外路症状を生じる。
※錐体外路症状とは?
・錐体路と錐体外路
錐体路は、大脳皮質から出て、脊髄で、運動神経につながっている。
意図的に筋肉を動かす。(随意運動)
錐体外路とは、錐体路以外の運動調節であり、随意運動を、なめらかに動かすための調節をしている(不随意運動)。
・錐体外路症状とは?
錐体外路が障害されることで生じる症状。
(1) 運動減少の症状
・筋強剛(固縮)
・運動緩慢・無動
(2) 運動過多の症状
・振戦
・舞踏運動
・ジストニア 等
④漏斗下垂体系
ドパミン神経が作用することで、プロラクチンの分泌を抑制している。
そのため、ドパミン神経が抑制されると、プロラクチンの分泌が増えるため、
・高プロラクチン血症
・性機能障害・・勃起不全
が起こる。
◯ドパミン受容体拮抗薬の副作用のメカニズム
第一世代抗精神病薬は、ドパミン受容体を遮断する作用を持つ。
①中脳辺縁系で薬理作用を発揮する→陽性症状に対する治療効果
②③④で薬理作用を発揮する→副作用症状につながる
ドパミン神経系に作用する薬は他のところでも使われている。
◯制吐薬
中枢のCTZ(化学受容器引き金帯)が刺激されると、嘔吐中枢を刺激して、嘔吐を引き起こす。
その刺激の一つとして、ドパミン D2 受容体がある。
そのため、D2 受容体拮抗薬は、制吐薬として使われる。
制吐薬のうち、中枢に移行する(BBBを通過する)薬剤は、中枢に移行し、先ほどと同様に、ドパミン神経を抑制したときのような、副作用症状が出る可能性がある。
◯消化管運動機能改善薬
胃では、ドパミン D2 受容体が刺激されると、副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンの分泌が抑制されるため、消化管運動が抑制される。
そのため、D2 受容体拮抗薬を用いると、消化管運動が促進される。
これも同様に、中枢に移行する(BBBを通過する)薬剤は、中枢に移行し、先ほどと同様に、ドパミン神経を抑制したときのような、副作用症状が出る可能性がある。
抗精神病薬の代表的な副作用としては、FGA, SGA それぞれに特徴的であるため、それを押さえておく。
その他に、悪性症候群がある。
頻度は低いが、発生すると重篤化するため、予防・早期発見が重要である。
◯悪性症候群
(誘引)ドパミン神経に作用する薬剤と関連する副作用である
・レボドパ(※抗パーキンソン病薬で後述する)
・抗精神病薬の服薬
・脱水・・・これは、対策可能であるため、脱水状態にならないような対策が重要である
(症状)
・高熱
・精神神経症状
・自律神経症状
・錐体外路症状
進行すると、死に至ることもあるため、早期の対処が重要である。
(対策)
①原因薬剤に対する対策
・レボドパ・・・レボドパを服用中の人が突然中断すると起こるため、すぐに再開する(ただし、症状が安定してから、徐々に減量する)
・抗精神病薬・・・抗精神病薬を投与開始時や投与量が変化したときに起こりやすい。起きた時は、中止する
②十分な輸液
③ダントロレン・・・悪性症候群の治療薬(細胞内のカルシウム濃度を調整することで、神経伝達物質の異常を解消させる)
④体の冷却
SGA(非定型抗精神病薬)に特有の副作用
◯体重増加
◯糖尿病
統合失調症では、運動不足・不規則な食事など生活習慣の乱れからメタボリックシンドロームの発症リスクが増加する、という点で、特に外来患者では、統合失調症ではない人口と比較して、メタボリックシンドロームの有病割合が約2倍高いという、疾患自体の影響もあるが、薬剤の影響による体重増加もある。
抗精神病薬の服用で、代謝異常が引き起こされ、体重が増加するため、注意が必要である。
この原因として、抗ヒスタミン作用や抗5-HT2C 受容体作用などが関連していると言われている。
ーーー(補足)ーーー
ヒスタミン受容体を遮断することで、過食から体重増加をきたす。さらに、ヒスタミン遮断すると、グレリンの分泌は増加するため、脂肪が蓄積する。
また、セロトニン受容体の内、5-HT2C 受容体の遮断は、体重増加と関連する。
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第二世代抗精神病薬のうち、オランザピン・クエチアピンは、糖尿病に禁忌である。
体重増加からインスリン抵抗性を引き起こすことで、糖尿病リスクが高まると言われている。
しかし、体重増加を伴わない糖尿病も報告されている。
また、ケトアシドーシスのリスクを増大させるといわれており、注意が必要である。
対策としては、あらかじめ、体重増加の可能性を説明した上で、
食事量や運動に注意を払い、体重も管理が重要である。
また、体重増加を伴わないこともあることから、定期的に血液検査を行うことが重要である。
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