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【補足】7-1 睡眠薬・抗不安薬

脳内には、睡眠中枢と覚醒中枢が存在している。

これを体内時計が調節することで、睡眠・覚醒が調節されている。

体内時計は、視床下部に存在しており、これが生命活動の日内変動を調節している。

 

<覚醒>

覚醒中枢が、大脳皮質を刺激することで覚醒状態を維持している。

アセチルコリン系やモノアミン系の神経伝達物質を介して覚醒の命令を伝えている他、

ヒスタミンやオレキシンも覚醒に関与している。

 

<睡眠>

夜になると眠くなるのは、

①プロスタグランジンD2(PGD2)などの睡眠物質が睡眠中枢を刺激する

②睡眠中枢は、覚醒中枢を抑制することで、大脳皮質の活動を鎮めて、眠りに誘う

 

GABA神経は、抑制の命令を伝える神経であり、これが覚醒系を抑制するように働く。

睡眠薬として使用されるものの作用機序は、

 

①抑制系の GABA 神経を増強させる薬

ベンゾジアゼピン系

非ベンゾジアゼピン系

(バルビツール酸誘導体)・・現在は、睡眠薬としては使用しない

 

②覚醒状態をもたらすオレキシンの作用を抑える薬

オレキシン受容体拮抗薬

 

③体内時計を調節するメラトニンを助ける薬

メラトニン受容体作動薬

以上がある。

また、アルコールをとると眠くなるのは、GABA 神経が増強されるため。

 

また、市販薬の睡眠改善薬として用いられるのは下記。

④ヒスタミン拮抗作用・・・覚醒状態をもたらすヒスタミンの作用を抑える

抗ヒスタミン薬

・抗アレルギー薬(広義)

抗ヒスタミン薬の副作用として、「眠気」を生じることを、逆に利用している。医療用医薬品の睡眠薬とは、全く異なる作用機序である。

また、コーヒーを飲むと目がさえるのは、

睡眠を誘うアデノシンの作用を、カフェインが阻害するため。

 

ちなみに・・・

①カフェインの摂り過ぎは、急性の毒性作用の原因となります・・・動悸・吐き気など

②常用的に摂りすぎると、やめたときに離脱症状がでます・・・頭痛・倦怠感など

眠いときは、気分転換に他の科目を勉強する、もしくは、いったん寝て、起きてから学習することをおすすめします。

睡眠薬の分類とイメージ

 

バルビツール酸系

非バルビツール酸系

最初に開発された睡眠薬

GABA を増強し、中枢を抑制することで、催眠作用をしめす。

連用で依存性のリスクがあること、過量投与時の危険性があるため、現在では、不眠治療には使わない。

 

ベンゾジアゼピン系

バルビツール酸系より、安全性は格段に向上した薬剤。

GABA を増強して、中枢を抑制することで、催眠作用を示すが、バルビツール酸系薬とは作用部位は異なる。

常用量でも依存リスクがある、転倒リスクがあるため、必要最低限の使用が推奨されている。

 

最近では、より安全性の高い薬剤が開発されている。

非ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系と同様に GABA 神経を増強する薬剤ではあるが、筋弛緩作用が少なく、ベンゾジアゼピン系よりも転倒リスクが低い

 

オレキシン受容体拮抗薬

メラトニン受容体作動薬

転倒リスクは低く、より安全性が高い薬剤として、使われている

ベンゾジアゼピン系睡眠薬

(詳しすぎるので、ここは聞き流して結構です。ベンゾジアゼピン受容体によって、作用が違うことを説明したいがための前置きです)

 

GABA 神経とは、神経伝達物質として、GABA を放出する。

GABA 受容体は、GABAA と GABAB の2種類があるが、睡眠作用と関連するのは、GABAA 受容体なので、そちらを説明する。

GABAA 受容体はイオンチャネル型であり、GABA が結合すると、チャネルが開いて、塩化物イオンが流入して、過分極させるため、神経細胞の興奮を抑制させる。(陽イオンが入ると興奮、陰イオンが入ると抑制のイメージで)

GABA 神経は介在神経として、他の神経細胞の興奮伝達を抑制している。

 

GABAA 受容体には、他の物質の結合部位も存在する。ベンゾジアゼピン系薬やバルビツール酸系薬、アルコールは、それぞれ別の部位に作用し、GABA 神経を刺激することで、抑制する。

(詳しすぎるので、ここは聞き流して結構です。ここも、ベンゾジアゼピン受容体によって、作用が違うことを説明したいがための前置きです)

GABAA 受容体は、5つのサブユニットが組み合わさってできている。

そのサブユニットには19種類ある。

その中の一部にベンゾジアゼピン結合部位がある。

・・・

(つまり)GABAA 受容体といっても、いろんな種類がある

ベンゾジアゼピン結合部位には、2種類ある。

ω(オメガ)1(Ⅰ型)とω2(Ⅱ型)

 

ω1 は、α1 にあり、ω2 は α2, 3, 5 に存在する。

α1 は鎮静・催眠作用に関与する反面、健忘や依存にも関連する。

α2 は抗不安作用、α2, α3 は筋弛緩作用と関連する。

 

 

「ベンゾジアゼピン系」は、ω1 とω2に非選択的に結合する。

そのため、催眠・鎮静作用がある一方で、

ω2にも作用するため、運動機能低下、筋弛緩作用、耐性がある。そのため、高齢者では、転倒のリスクに注意が必要である。

「非ベンゾジアゼピン系」は、ω1 に選択的に結合する。

そのため、転倒リスクは低い(低いが、0ではないので、注意は必要)。

 

ω1 に選択的に結合するのは、

・非ベンゾジアゼピン系

  ゾルピデム

  ゾピクロン

  エスゾピクロン

クアゼパム(ベンゾジアゼピン系に分類)

ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系薬の特長

 

神経の興奮を抑える薬であり、

・催眠作用を持つことから、睡眠薬として使われる他にも、

・鎮静・抗不安作用を持つことから、麻酔前投薬や抗不安薬として用いられたり、

・筋肉の緊張をとることからも、麻酔前投薬等に使われ

・脳の神経の過剰な興奮を抑えることから、抗てんかん薬として使われる。

 

薬剤によって、どの作用が強いかが異なるため、使い分けられる。

薬理作用の特長によって、不眠症治療薬として使われるか、抗不安薬かの使い分けに加え、作用時間の長さによっても分類される。

 

睡眠障害の型に応じて、作用時間の長さを使い分けている。

睡眠障害のうち、入眠障害(寝つきが悪い)には、作用時間が短い超短時間作用型~短時間作用型が適している。効き目が短いので、翌朝に持ち越さない。

中途覚醒(夜中に目が覚める)や早朝覚醒(朝方に目が覚める)には、中間作用型~長時間作用型が適している。

 

また、抗不安薬としては、作用時間が長いと、日中の不安に対して、持続的に効果を発揮する点はメリットとなる。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の代表的な注意点をまとめる

 

運動障害・転倒

筋弛緩作用があるため、運動障害・転倒に注意が必要である。

転倒すると、骨折から ADL 低下をきたすため必要

特に、長時間作用型の薬剤では、影響が長く続くため、注意が必要

夜間、トイレに起きたときや、ベッドから起きたときの導線の確保など、配慮が必要である

 

対策として、高齢者ではできるだけ使用しないが、必要な場合にも、必要最小限にとどめる

 

前向性健忘

服薬後、入眠までの記憶がない、という、一過性の健忘の可能性がある。

(服用時点から、未来の方向=前とするので、「前向性」という)

特に、作用時間が短い、超短・短時間作用型は、服薬後、意識レベルが速やかに低下するため、長時間作用型よりも健忘の可能性が高い。

 

症状としては、翌朝目が覚めた時に、服薬後の行動を思い出そうとしても、思い出せない状態で、夢遊症状などの睡眠随伴症状を伴うことがある。

 

対策として、就寝直前に服薬すること、がある。

(通常、「就寝前」服薬とは、就寝30分前だが、超短・短時間作用型の睡眠薬は、就寝直前に服用する)

アルコールを併用するとリスクが高いため、アルコールの併用は推奨しない

 

ただし、麻酔前投薬として使用する場合は、メリットになり得るとも言われる(手術室で多くの人に取り囲まれている記憶がないため)。

 

持ち越し効果

薬の効果が長く続きすぎて、翌朝まで眠気が残っている状態

作用時間が長い、長時間作用型では注意が必要

 

対策として、病棟や施設で、頓服指示の睡眠薬を管理する場合、不眠の訴えがある場合、〇時までであれば、頓服指示の薬を使う、という内規を定めているので、それに従う。

非ベンゾジアゼピン系

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、z-drug (z薬) とも呼ばれる。

 

ゾルピデム

ゾピクロン

エスゾピクロン

以上の3剤が該当する。いずれも“z”がついている。

 

ω1 受容体に選択的に作用するため、筋弛緩作用が弱いことが特徴的である。

3剤ともに、超短時間作用型であるため、入眠困難に対して、寝つきを良くする効果が期待できる。

ただし、睡眠パターンに対応する選択肢がないのは、デメリットとなりえるところ。

 

筋弛緩作用は弱いが、転倒リスクは0ではないので、もちろん、注意は必要である。

メラトニン受容体作動薬

メラトニンとは、脳の松果体から分泌されるホルモンであり、夜になると分泌されて、メラトニンん受容体を刺激することで、眠りを誘う効果がある。

体内時計に従って分泌され、日内変動を調節している。

 

そのため、メラトニン受容体を刺激することで、睡眠を促す効果がある。

もともと体内で作られている物質であり、安全性も高い。

メラトニン受容体作動薬のうち、メラトニンは、唯一、小児適応がある睡眠薬である。(神経発達症に伴う入眠困難に適応)

 

また、体に夜が来たことを認識させ、1日のリズムを作るような薬剤であるため、ジェットラグ症候群(いわゆる、時差ぼけ)による不眠に使用される。

オレキシン受容体拮抗薬

オレキシン神経は、体内において「覚醒」の維持や食欲と関連している神経である。

朝になると、オレキシン神経が活性化され、体を「覚醒」させ、身体活動ができる状態にさせる。そのため、オレキシン神経系の働きを抑制することで、睡眠に誘う効果がある。

 

オレキシン受容体拮抗薬である、スボレキサントやレンボレキサントが用いられている。作用時間が長いため、中途覚醒型の睡眠障害に対して使われる。

 

特徴として、依存性がないことや、筋弛緩作用がないため、高齢者に安全に使用できる薬剤と位置付けられている。ただし、薬物相互作用には注意が必要である。


不眠症治療に関しては、不安を感じている患者も多くいるため、正しい知識を提供し、適性使用を支援することが重要である。