◯炎症
炎症とは、細胞障害に対して、生体がその因子を排除し、組織を修復するために起こす、一連の防御反応である。
細胞障害が起こると、組織内のマスト細胞やマクロファージがかけつけて、ケミカルメディエーターや炎症性サイトカインを放出することで、活性化される。
※サイトカインとは、細胞から放出され、周辺の細胞に情報を伝達するための物質の総称
その結果、血管は拡張し、血管透過性は亢進する。これにより、血管内にいる免疫細胞が、細胞障害部位に駆けつけることができるため、組織の再生・修復が行われる。
しかし、その過程で、血管拡張・血管透過性が亢進したため、「発赤」「熱感」「疼痛」「腫脹」という炎症の4主徴も起こる。
発熱は、侵入したウイルスや細菌の増殖を防ぐための、防御反応として起こるものである。
抗炎症薬は、
・副腎皮質ステロイド
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
に分類される。
NSAIDs はさらに、化学構造や特徴によって分類される。
酸性 NSAIDs には、アスピリン、ロキソプロフェンなどがある。
また、抗炎症作用はないが、解熱鎮痛作用のある薬として、ピリン系・非ピリン系の解熱鎮痛薬がある。
NSAIDs
炎症反応を活性化させる物質の一つに、プロスタグランジンがある。
これにはさまざまな種類があるが、その一つにプロスタグランジン E2 がある。
これは、細胞膜の構成成分であるリン脂質から、アラキドン酸を経て、シクロオキシゲナーゼという酵素で合成されている。
プロスタグランジン E2 は、炎症反応を引き起こしているほか、疼痛や発熱にも関与している。
発熱も、本来、生体を守る防御反応の一つである。
◯抗炎症薬の薬理作用
副腎皮質ステロイドは、ホスホリパーゼ A2 という酵素を阻害するため、起炎物質の合成を阻害することで、炎症を鎮める。
NSAIDs は、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、起炎物質の合成が阻害されるため、炎症が鎮められる。
また、炎症を鎮める抗炎症作用と同時に、解熱・鎮痛作用も有している。
◯シクロオキシゲナーゼ(COX)
COX は、主に2種類がある。
COX-1 は、全身に常時発現しており、COX-1 で作られたプロスタグランジンは、生理的な機能を発揮している。
COX-2 は、炎症が起こったときに活性化され発現し、COX-2 で作られたプロスタグランジンは、炎症反応の促進に関与している。
NSAIDs は COX を阻害する薬である。
COX-2 を阻害すると、炎症を鎮める効果がある
COX-1 を阻害すると、本来の胃粘膜保護作用などが失われてしまい、副作用である胃腸障害や胃潰瘍の原因となる。
そのため、COX-2 に選択的に作用する薬剤は、胃腸障害の副作用は少ない薬である、と考えられる。
ほとんどの NSAIDs は COX 非選択的である。
COX-1 及び COX-2 を強く阻害するため、薬効も強いが、胃腸障害などの副作用にも注意する必要がある。胃粘膜保護薬など、副作用に対する薬が一緒に処方されることもある。
一部の NSAIDs は、COX-2 選択的である。
コキシブ系と総称される(cox inhibitor→coxib)。
「セレコキシブ」のように、名前の語尾に、「〜コキシブ」が付いている。
化学構造からの NSAIDs の分類では、中性がこれに相当する。
COX-2 阻害薬は、胃腸障害の副作用が少ないため、慢性疼痛の治療に使用される。
◯NSAIDs の有害事象
前述の胃腸障害・胃潰瘍の他にも、代表的な副作用について、説明する。
◯アスピリン喘息
NSAIDs 服用後に、喘息のような呼吸困難・鼻閉の症状がでる。
この機序として、COX 阻害されたことで、余ったアラキドン酸は、別ルートの反応が活性化され、ロイコトリエンの合成が促進される。ロイコトリエンは気道過敏性を亢進させてしまうため、喘息様症状が出る。
アスピリン喘息の原因薬剤には、交差性がある。
つまり、どれか一つの薬剤を服用後に、アスピリン喘息の症状が出る人では、他の薬でも、同様に症状が出る可能性がある。
鎮痛薬のうち、アスピリン喘息の原因になりやすいものは、酸性 NSAIDs 全般である。
そのため、アスピリン喘息の既往がある患者には、酸性 NSAIDs 全般が禁忌である。
一般的に、COX-2 阻害薬や塩基性 NSAIDs は、アスピリン喘息の原因となりにくいと言われている。(つまり、アスピリン喘息がある人では、COX-2 阻害薬なら使用可能な場合がある)
ただし、中には、酸性・中性・塩基性のどれでもアスピリン喘息が起こる人もいるため、注意が必要である。
では、アスピリン喘息の既往がある人の鎮痛薬として使えるのは、
・アセトアミノフェン
・麻薬性の鎮痛薬
がある。
◯胃腸障害(NSAIDs 潰瘍)
前述の通り、NSAIDs は、胃粘膜保護作用のあるプロスタグランジンの合成も阻害するため、胃腸障害が起こることがある。NSAIDs 潰瘍と呼ばれる。
NSAIDs を長期間・高用量使うと、危険性も高くなる。
対策として
①プロドラッグ化された薬を使う
(例)ロキソプロフェン
高用量の薬剤が、胃粘膜に直接晒されないように、プロドラッグ化されており、体内に吸収されたあと、酵素で分解される。この分解されたものが、薬理作用を示す活性本体である。
※酵素で切れたあとに薬理作用を示す薬=プロドラッグ(プロ=前、プロフェッショナルのプロではありません)
②COX-2 阻害薬を使う
③食後服用
空腹時に服用すると胃腸への負担も大きいため、食後服用が推奨される。また、粘膜に付着して残存すると、粘膜障害の可能性もあるため、コップ1杯の多めの水で服用することも推奨される。
④胃粘膜保護薬の併用
ガイドラインで推奨されているのはプロスタグランジン製剤だが、臨床では、レバミピドが頻用されている。
⑤必要最低限
炎症や疼痛が治ったら、自己調節の指示が出されることもある。
関連事項)
解熱鎮痛薬
アセトアミノフェン
アセトアミノフェンの作用機序は、NSAIDs とは異なり、中枢に作用すると言われている。
体温調節中枢に作用して、熱のセットポイントを下げることで、解熱作用をもたらし、
中心に作用して痛み閾値を上げることで、鎮痛作用をもたらすと言われている。
アセトアミノフェンは、小児や妊婦にも安全に使用できる鎮痛薬として、非常に重要である。
アセトアミノフェンは、NSAIDs よりも安全性が高いが、当然、副作用の可能性もある。
◯肝障害
アセトアミノフェンの代謝物が、肝障害の原因となる。
アセトアミノフェンを大量に服用した場合、飲酒している場合、その代謝物ができやすくなる。また、高齢者の場合、代謝物を排泄する能力が低下しているため、蓄積しやすい状態にある。
そのため、長期間服用しているような場合は、定期的に血液検査を行うことが重要である。
※風邪薬をアルコールで飲んではダメ、というのは、これ。
関連事項)小児と解熱鎮痛薬
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